初めてでもわかる相続税・贈与税の有価証券の評価

ご家族から財産を相続や贈与で譲り受けたり、将来のため、ご子息に財産を贈与したりする際に避けて通れないのが相続税や贈与税の問題です。中でも、株式や投資信託、国債といった「有価証券」は、現金と異なり、「その価値がいくらになるか(評価額)」を決めるのに、専門的なルールが存在します。

「評価」と聞くと、なんだか難しそうと感じるかもしれませんが、実はこのルールを知っていることで、納税額を低減させることができる場合ありますので、重要なポイントとなります。

今回は、相続税や贈与税の申告する場合の一般的な有価証券の評価方法を、初心者の方にもわかりやすく解説させていただきたいと思います。


1. 評価の基本ルール

相続税や贈与税の計算では、原則として「財産を取得した日(課税時期)の時価」で評価を行います。

しかし、株価や為替レートは毎日変動し、乱高下することさえあります。

もし、相続が発生した日だけ、保有していた上場株式が急騰していて、実際に財産を取得した日に下落していたらどうでしょうか?

「たまたまその日の相場が高くてために、税金が高くなるのは不公平だ」と思われるのではないでしょうか?

そこで、国は、一時的な価格変動を考慮して、納税する方に不利にならないように、税務上の特別な評価ルールが設けています。


2. 上場株式(国内)の評価方法

証券取引所に上場されているは、上場株式の評価額は、以下の4つの価格指標を比較し、その中で最も低い価格を評価額として採用することができます。

  1. 課税時期(亡くなった日や贈与した日)の終値(最終価格)
  2. 課税時期の属する月の日々の終値の平均額
  3. 課税時期の属する月の「前月」の日々の終値の平均額
  4. 課税時期の属する月の「前々月」の日々の終値の平均額

例えば、亡くなった日(相続開始日)や贈与した日の株価が2,000円で、その月の株価の平均が1,900円、前月の株価の平均が1,800円、前々月の株価の平均が1,500円の場合であれば、1,500円の株価を採用することができます。つまり、最も安い株価で評価してもかまいませんというルールが設けられています。

【実務のポイント】
個別銘柄のその月、前月、前々月の平均株価は、日本取引所グループの「月間相場表」を検索すれば確認できます。

月間相場表 | 統計情報(株式関連) | 日本取引所グループ

月間相場表のページ。東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所等を運営する日本取引所グループ(JPX)のサイトです。


3. 上場投資信託(ETF・REIT)の評価方法

上場投資信託(ETF)や、不動産投資信託(REIT)は、株式市場で自由に売買されており、その性質は上場株式と非常に似ています。そのため、評価方法は、上場株式に準じて行われます。

よって、上場されている投資信託は、上場株式と同様に「4つの価格指標のうち、最も低い価額」を選択して評価します。計算手順や資料の集め方は、上場株式とまったく同じと考えて問題ありません。


4. 非上場の投資信託(一般的な投資信託)の評価方法

証券会社や銀行・信用金庫・信用組合の窓口で購入できる一般的な株式や債券などの投資信託は、市場で売買されないため、価格指標として「基準価額」が公表されています。

一般の投資信託は、「税金を控除する前でいくら残るか」で評価する

非上場の一般の投資信託の評価額は、原則として「もし課税時期に解約(換金)したとしたら、税金の控除前で実際に手元に戻ってくる金額」で評価します。

  • 評価の基準
    課税時期の基準価額がベースになります。上場株式のような月平均を採用するということはできません。
  • 控除項目
    一般の投資信託は、解約時に「信託財産留保額」(解約時のペナルティのような手数料)や、運用益に対する「源泉所得税」が差し引かれる場合があります。

【実務のポイント】
一般の投資信託には、公募投資信託と私募投資信託があります。運用益に対する「源泉所得税」が控除されるのは、私募投資信託のみとなります。この点は、専門的な知識が必要になりますので、財産評価に詳しい税理士にご相談ください。


5. 外国株式の評価方法

AppleやAmazonなどの海外の株式も、基本的には国内の上場株式と同じ考え方で評価します。ただし、「為替レート」と「時差」を考慮する必要があります。

2つのステップ

  1. 外国通貨ベースでの株価決定
    現地の市場価格を使い、国内の上場株式と同じく「4つの価格指標のうち、最も低い価額」を選択します。
  2. 日本円への換算
    決定した外貨建ての株価を、日本円に換算する必要があります。この際使用するのは、「課税時期における対顧客直物電信買相場(TTB)」です。

【実務のポイント】
為替レートは、銀行が外貨を買い取るレート(TTB)を使います。また、外国株は時差があるため、日本の「亡くなった日」に取引が成立していないことがあります。実務上は、日本の日付における現地市場の終値を確認することになります。


6. 国債(個人向け国債・利付国債)の評価方法

国債は、その種類によって評価の方法が異なります。

(1) 個人向け国債の評価

個人向け国債は市場で売買されません。評価額は「その日に中途換金したらいくら戻ってくるか」で計算します。

  • 計算のポイント
    中途換金すると「中途換金調整額」というペナルティのような手数料が差し引かれます。したがって、評価額は額面金額よりも低くなることが一般的です。

(2) 利付国債(市場流通するもの)の評価

市場で売買されている国債は、上場株式と同じく市場価格で評価します。

  • 計算のポイント: 課税時期の最終価格に、まだ受け取っていない利息(既経過利子)を加えて評価額とします。また、値動きが乱高下しづらいため、上場株式のように「4つの価格の最低値」は使えないルールとなっています。

7. 社債の評価方法

社債は、出資者が会社にお金を貸付け、社債券という債券を出資者が受け取る金融商品です。

上場されている場合の評価

証券取引所に上場されている社債は、原則として「課税時期の最終価格」で評価します。

計算のポイント
 上場株式と異なり、こちらも「月平均額の選択」はできません。また、国債と同様に、未収となっている利息(既経過利子)があれば、それを加算します。


まとめ

有価証券の評価は、単に「その日の値段」を見るだけでは不十分で、特に上場株式の「4つの価格の最低値を選択する」ルールは、納税額を適正に抑える上で最も重要なポイントとなります。

まずは、金融機関から定期的に送られてくる「取引残高報告書」を準備し、株価を調べてみて、どの価格を採用すべきか概算計算をしてみましょう。もし、計算が複雑で不安な場合は、税理士にご相談ください。